企業が役員給与を期中で減額する場合、法人税法施行令69条が定める「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」に該当しなければ、損金算入が認められません。ここでの「著しい業績悪化」とは何を指すのか――。裁判例や裁決例から、その判断基準を整理してみます。
「著しい業績悪化」とは
国税庁の通達やQ&Aでは、以下のようなケースを「著しい悪化」として例示しています。
1.株主との関係上、経営責任を踏まえて給与減額が必要な場合
2.取引銀行との借入金返済リスケ協議に伴い減額する場合
3.信用維持のため策定した経営改善計画に給与減額が含まれる場合
単なる資金繰りの都合や業績目標未達は「著しい悪化」に含まれません。
数値的な「著しい」の目安
ある法人では、経常利益が前年比6%減少したことを理由に役員給与を減額しましたが、裁決では「著しい悪化」とは認められませんでした。実際にはその年度の売上高は過去最高、利益も上位水準だったためです。つまり「6%減」程度では不十分で、裁判所は「やむを得ず減額せざるを得ないほどの事情」があるかを重視しています。通達でも「著しい」の数値基準は明確にされていませんが、他規定では「50%減」などが目安とされるケースもあり、相当大きな変化が必要と考えられます。
利害関係者との関係
別の事例では、関連会社の債権者から強く求められ、役員給与を減額したケースが争われました。しかし、自社に業績悪化がなかったため「著しい悪化」に当たらないとされ、減額は認められませんでした。
Q&Aでも「第三者との関係上の減額」は、自社の経営悪化が前提であると示されています。単に外部からの要請があっただけでは不足なのです。
まとめ
・「著しい悪化」は単なる業績低下では足りず、誰もが認める深刻な状況である必要がある
・第三者(株主・銀行・取引先)との関係による給与減額も、自社の業績悪化が前提条件
・減額を正当化するには、客観的証拠(財務諸表、取引銀行との協議記録など)の提示が不可欠
実務上は、役員給与の減額を検討する際、単なる目標未達や一時的な赤字ではなく「やむを得ない事情」として説明可能なレベルの悪化かどうか、慎重な判断が求められます。