令和8年度税制改正大綱(令和7年12月26日閣議決定)において、事業承継税制の“入口要件”である計画提出期限について、次の延長が明記されました。
1.改正ポイントの整理(期限延長の内容)
① 法人版事業承継税制
・対象:非上場株式等に係る相続税・贈与税の特例納税猶予制度
・延長内容:
特例承継計画の提出期限を「令和9年9月末」まで延長
・延長期間:1年6か月
② 個人版事業承継税制
・対象:個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度
・延長内容:
個人事業承継計画の提出期限を「令和10年9月末」まで延長
・延長期間:2年6か月
※いずれも「計画の提出期限」の延長であり、
相続・贈与の実行期限そのものを延ばすものではない点に注意が必要です。
2.期限延長の背景・趣旨
今回の延長措置の背景として、次の事情が考えられます。
●中小企業・個人事業者において
・後継者未定
・株価・事業整理が未了
・経営環境の不透明さ(人手不足・物価高等)
●特例承継計画の作成には
・後継者確定
・中長期の経営見通し
・認定支援機関との連携
が必要であり、準備期間が足りないとの声が多かったことが背景にあります。
そのため政府としては、
「制度の打ち切り」ではなく、「使える人を増やすための時間的猶予」を与える判断をしたものといえます。
3.実務への影響と留意点
(1)「計画さえ出せば安心」は誤解
今回延長されたのは、あくまで
特例承継計画・個人事業承継計画の提出期限です。
そのため、
・株式・事業用資産の承継(相続・贈与)
・認定要件の充足
・承継後の雇用確保要件・事業継続要件
といった本体要件は一切緩和されていません。
(2)法人版は「最後の準備期間」と考えるべき
法人版特例事業承継税制は、
・相続・贈与の適用期限:令和9年12月末
・計画提出期限:令和9年9月末
となる見込みであり、
「計画提出 → 贈与実行」までの余裕は実質3か月程度です。
今回の延長は
「もう一段、準備を急ぎなさい」というメッセージとも読み取れます。
(3)個人版は比較的余裕があるが油断禁物
個人版は法人版より期限が後ろ倒しとされ、
・計画提出期限:令和10年9月末
とされましたが、
・土地・建物の整理
・貸付不動産の有無
・青色申告・事業実態要件
など、事前確認事項が多い制度です。
「期限が延びた=後回しでよい」ではなく、
早期の制度適用可否判断が重要です。
4.総括
事業承継税制は「使うかどうか」ではなく「使える状態にしておく」制度です。
今回の期限延長は、制度の延命ではなく、承継準備を促す“最終猶予”と受け止めるべきです。
特に法人版については、
株価対策・後継者確定・ガバナンス整理を含め、
令和9年を待たずに動くことが実務上の正解といえます。